楽天(株)の携帯事業がなぜ他の携帯事業者の年間の設備投資額程度である初期投資6000億円以下で開始できるのか、その秘密がわかってきた。楽天グループの楽天モバイルネットワーク(株)は20日、インドのデジタルソリューション会社であるテックマヒンドラ社と連携し、次世代ネットワーク(4G/5G)の試験施設「楽天クラウドイノベーションラボ」(東京都江東区)を設立した。
楽天の三木谷浩史会長兼社長
楽天・三木谷氏「これまでの携帯事業に技術革新起きてこなかった」
同日行われた記者会見で、楽天の三木谷浩史会長兼社長は、携帯事業の初期投資が6000億円を下回ることについて問われ、「私が楽天を始めた22年前は、1つのサーバーが8億円ぐらいだったが、その8億円のサーバーの計算機能はいまでは20万円のパソコンでもできる。そのくらいの技術革新が起こっているが、携帯事業ではそれが起きてこなかった」と話した。また、「他の携帯事業者はハードウエア事業者と組んで事業を進めてきたが、ネットの世界は完全にクラウドに移っている。携帯サービスだけが、クラウドに移っていない」と語り、携帯事業のインフラをクラウドネットワークにすることが、大幅な事業コストを削減、短期間での事業の商用化、通信障害のリスク低減につながっているとした。
消費者側のメリットとして三木谷氏は、携帯利用料が低下するだけでなく、通信スピードが上がるほか、ポイントサービスなど、楽天エコシステムと連携したサービスを受けられる点を挙げた。
ハードウェアは「楽天市場」でも利用する汎用品
同施設にはデータを管理するサーバーが設置されていたが、これは汎用品で「楽天市場」で使用されているもの同等のものだという。ハードウエアは最新鋭のものではなく、データをクラウド上で管理する。ソフトウェアはそれぞれの機能ごとに開発され、1つの機能を開発するのはベンダー1社に限られ、シンプルな構造になっているという。
これまでの携帯事業者は、ハードウエアをベースにしており、そのハードウエアに付随する独自のソフトウエアの開発やメンテナンスが必要で、そこに時間とコストがかかっているという。楽天の携帯事業は、その課題をクラウド型のネットワークにすることで解決している。
楽天携帯キャリア事業の運用時と同じ環境で実験
同施設は、同社がすでに実証実験に成功しているエンドツーエンドの完全仮想化クラウドネットワークを再現した施設。今後、携帯事業のネットワークが稼働するのと同じ環境を用意し、新機能の商用化に向けた試験を繰り返し行う。また、バグを早期に発見し、品質の高いソフトウエアを商品ネットワークに継続的に提供する。同ラボでは、小規模なソフトウエア機能の試験を短期間で自動的に繰り返すことで、試験期間の短縮とコスト削減を実現。短期間でのサービス商用化をサポートする。
ネットワーク上でソフトウエアが断続的に稼働することで、通信ネットワークの不具合を低減し、高品質で安定したサービスの提供が可能になるという。
三木谷氏は「楽天が作る新しいネットワークは、今までの概念を根底から覆すクラウドベースのネットワーク。いままではさまざまなハードウエアベンダーさんが、専用のハードウエアをつないでいくという発想だった。5Gがすぐそこに来ているなか、楽天モバイルとしては、最初から5Gのネットワークを構築し、その上に4Gを乗せるまったく新しい形。リードタイムを大幅に短縮できる」と話した。
これまで楽天の携帯事業は、投資資金が少額であることなどからアンテナや基地局が不足すると予測され、携帯3キャリアの品質に到達できるのか疑問視されていた。しかし今回、クラウドベースのネットワークの全容が明らかになり、後発のメリットを最大限に活かし、3キャリアよりも先端的な手法で携帯キャリア事業を展開することがわかった。楽天の携帯キャリア市場の参入で、携帯業界に革命が起きる可能性が出てきた。
(山本 剛資)
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