コロナ禍の巣ごもり消費拡大で業績が好調な通販会社が目立つなか、多数の直営店舗を抱える(株)ファンケルは、インバウンド需要が減少したことでマイナス成長となっている。ただ、通販は好調で業績も回復傾向にある。「世の中の『不』を解消しよう」を創業理念に掲げ、顧客視点の歩みを続けてきたファンケルが、コロナ禍の1年に実施した主な取り組みを追った。
これまでの急成長を考慮すれば経営は安定
同社の直近の決算(20年4~12月期)では、売上高が前年同期比12.8%減の860億9500万円、営業利益が同30.4%減の86億8600万円と、業績面では落ち込んでいるように見える。ただ、同社はここ数年で業績を拡大しており、これまでの成長率を考慮すれば、数年前の業績から成長が鈍化したレベルにあるため、コロナ禍でも健闘している企業と言えるだろう。最終決算は売上高12%増・営業利益46%増の成長を遂げた2019年3月期決算の規模に落ち着きそうだ。
業績が下降した主な要因はインバウンド需要だ。同社の商品は中国を中心に海外でも人気が高いため、コロナ禍以前は中国人観光客の「爆買い」対象になっていた。コロナ禍では、海外旅行者が激減したため、これまで通りの店舗の売上が見込めなくなったことが業績に大きな影響を与えている。ただ、店舗販売から通信販売への積極的な誘導や、定期販売、外部通販の強化など、通販シフトの取り組みが奏功し、通販の業績は好調に推移している。
コロナ初期には、国内外にいち早く物資を支援
コロナ初期、同社はこれまでの「爆買い」の恩返しのように、いち早く中国に物資を支援した。20年1月に中国・武漢市で医療用の外科マスクと防御マスク、保護服を必要しているという発表を受け同2月には、事実上の「封鎖」状態となっていた中国・武漢市とファンケル製品の現地販売代理店にマスク20万枚を寄付。さらに現地の医療機関に防護服3000着と保護ゴーグル2000個、医療用手袋2000枚を、現地の医療機関へ届けた。
国内への支援では、同4月に、医療現場の最前線で奮闘している看護職の人たちに向け、化粧品「マイルドクレンジング オイル」(120mL、税込1870 円)を寄贈。(公社)日本看護協会を通じ、全国に設置されている看護協会に合計2万本を届けた。
マスク不足解消を目的にマスク販売を開始
こうした支援を続ける一方で、国内のマスク不足問題はなかなか解消されず、同社は5月、中国の国有企業から調達した不織布マスクを全国の医療・保育現場に寄贈するとともに、自社の通販サイト「ファンケル オンライン」を通じて、不織布マスクの販売を開始した。
マスク不足の解消が目的だったため、マスク原価が高騰中のなかでも適正価格を維持し、『不織布マスク 大人用』(175×95mm、50 枚入り)を税込3590円で提供。同6月末の注文まで送料を無料とした。当初は会員向けの販売だったが、非会員でも購入できるように対応したほか、子供用マスクも販売。40代以上の女性からの購入が中心だった。
また、ユーザーや株主らと連携した寄付を実施。同年6月には利用客からの「善意のポイント寄付」を原資として、介護保険施設の全国団体の1つである「全国老人保健施設協会」に、不織布マスク約4万5000枚を寄贈した。サイトに特設コーナーを設け、「1ポイント=1円」のポイント寄付を募集したところ、同年5月には965人の利用客から、133万3461ポイントの寄付が集まっていた。
免疫機能の維持に役立つ『免疫サポート』を発売
本来の健康・美容関連分野でも、コロナ禍の体調管理をサポートする新商品を発売。同12月に健康な人の免疫機能の維持に役立つ機能性表示食品『免疫サポート』の販売を、通信サイトと直営店舗などで開始した。
『免疫サポート』は、キリンホールディングス(株)が開発した独自素材「プラズマ乳酸菌」を1000億個配合。キリンの独自素材とファンケルの技術力を掛け合わせた新しいタイプの機能性表示食品で、水なしでかんでおいしく食べられる「チュアブルタイプ」と「粉末タイプ」の2種類があり、「チュアブルタイプ」は定番品として、「粉末タイプ」は数量限定で発売した。
「チュアブルタイプ」は約1万5000店舗で取り扱い、発売初月の12月に約20万袋を販売するほどの盛況ぶりだった。
スキンケアブランド『アンドミライ』を全面リニューアル
化粧品では、スキンケアブランド『AND MIRAI(アンドミライ)』を全面刷新した。スキンケア自社調査では、直近2~3か月の自身の肌について、約7割が肌荒れを経験しており、乾燥や花粉、マスク着用など、ストレスのかかる環境が一因との認識を持っていることが分かった。
そこで同社では『アンドミライ』を全面刷新し、通販サイト(Amazon、楽天市場、Yahoo! ショッピング、LOHACO)と直営店舗、免税店で同4月に発売。ターゲットを30歳前後の女性から、現代特有のストレスで肌が荒れがちになるすべての女性に変更し、効率良くうるおいを肌にめぐらせ、くすみのないクリアな肌に導くブランドに刷新した。
肌荒れなどを起こしやすい生活をしている現代女性に向け、肌荒れを防ぐ「肌のめぐり」に着目。長年の研究から「肌のめぐり」に必要な4つの天然成分(黒川温泉水、ハトムギエキス、ヒアルロン酸、桜発酵チャージエキスEX)を発見。それらを独自にブレンドした「天然めぐり水」を全品に配合した。
電話窓口担当者に「特別慰労手当」を支給
コロナ禍に即した人事面での対応も脚光を浴びた。初回の緊急事態宣言は昨年4月7日に東京・神奈川・埼玉・千葉・大阪・兵庫・福岡の7都府県を対象に発令され、同4月16日には対象が全国に拡大した。緊急事態宣言発令後、ファンケルの多くの直営店舗が休業を余儀なくされたが、同社では直営店舗従業員の休業分の給与を100%補償した。
そのほか、自宅でテレワークをする従業員には「在宅勤務支援手当」(一律2000円)、蜜を避けるために少人数体制での対応で激務となっていた電話窓口担当者には、「特別慰労手当」(1万5000円)をそれぞれ支給した。また、営業再開後のサービスレベル向上のため、ファンケルとアテニアの直営店舗の従業員に対し、製品などの知識を強化する学習ツールの提供を開始。Eラーニングの実施など、顧客を迎える「ポストコロナ」へ向け、スキルの向上にも取り組んだ。
「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞で厚生労働大臣賞
こうした取り組みもあって、今年の3月には「人を大切にする経営学会」が主催する第11回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞では、ファンケルが厚生労働大臣賞を受賞した。同賞は、人事・労務面から見て大賞の趣旨に最もふさわしい企業、とりわけ障がい者や高齢者、女性などの活躍推進や長時間労働の削減などの総合的な雇用管理に関して優れた活動を実践した企業に贈られるもの。
同社によると、正規雇用率は実質98%で、月間所定外労働時間は4.8時間、有給取得率は87.4%。20年3月期(単体)の女性従業員比率は68.6%で、管理職比率が43.6%に上り、積極的な登用で女性管理職比率 50%をめざしている。また、21年3月12日現在(国内連結)の障がい者雇用率は3.33%(厚生労働省が定める障がい者の法定雇用率2.3%)となっている。
「在宅コールセンター」も開始
また、4月1日からは、顧客からの電話応対を自宅で行う「在宅コールセンター」を開始。従業員の安全確保と柔軟な働き方の実現をめざすもので、電話窓口業務に従事する従業員約180人のうち27人が順次、在宅での勤務に移行する。新型コロナウイルスの感染が再拡大した場合に備えてのものだが、大地震や台風などの自然災害時などを含め、緊急時でも従業員の安全を確保しながら、ユーザーに不便をかけることなく事業を継続できる体制を整備する取り組みだ。
同社の直営店は閉店も出始めているが、コロナ対策を含め、新しい時代に即した体制構築の一環なのかもしれない。今回のパンデミックで緊急事態に対応する社内体制を整え、インバウンド需要に頼らない取り組みによって事業を安定化させつつある同社。コロナ禍初期の取り組みでは、企業価値を高め、ユーザーとのより深い関係性を構築させることにもつながっただろう。コロナ禍での今後の取り組みに注目が集まる。
(山本 剛資)
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