消費者委員会の新開発食品調査部会と新開発食品評価第一調査会は3日、合同会議を開催し、特定保健用食品(トクホ)で初となる「疾病リスク低減表示」の個別審査に向けて、許可要件の擦り合わせを行った。生活習慣病などの発症リスクを低減する可能性をうたえることから、機能性表示食品との差別化が可能となる。“トクホ復活”へ大きく前進した形だ。
合同会議の冒頭の様子(3日、東京・霞が関)
審議入りを前に基本的な考え方を共有化
現在、規格基準を設けた疾病リスク低減表示として、「カルシウムと骨粗しょう症」「葉酸と神経管閉鎖障害」の2つがある。これら以外の「関与成分・疾病名」を申請する場合、個別審査の手続きとなるが、通知で示された許可要件が不明瞭なため、チャレンジする企業はなかった。
しかし、消費者庁が事前相談に乗り出したことで、3社が申請に漕ぎ着けた。これを受けて消費者庁は2月14日、「DHA・EPAと心血管疾患」「茶カテキンとメタボリックシンドローム」「桑の葉由来イミノシュガーと2型糖尿病」の3件について、消費者委員会へ諮問した。
今後は消費者委員会の調査会や部会で審議するが、「初めてのケースとなるため、審議プロセスに入る前に要件の確認と、基本的な考え方を共有しておくことが必要」(部会長・受田浩之氏)と判断、異例とも言える合同会議の開催となった。
「メタ分析」の質をどう担保するか?
会合では、疾病リスク低減表示の許可要件をめぐり、主に2つの課題にフォーカスした。
1つ目は、複数の研究結果を統合して解析するメタ分析(メタアナリシス)の質の担保。消費者庁の通知によると、許可要件として、「関与成分の有効性を検証した論文から成るメタ分析の論文」を提出する必要がある。
申請企業が提出するメタ分析は、(1)申請企業以外の第三者による研究論文を主に用いたもの、(2)申請企業の研究論文を主に用いたもの(新規成分や独自成分のケースが該当)――に大別される。
第三者による研究論文を主に用いたメタ分析は、基本的に信頼性が高い。一方、申請企業の研究論文を主に用いた場合には、分析の妥当性が問われる。
各委員からは、「一部企業のメタ分析の場合、個々の論文の質を評価しなければならない」、「医療費削減まで視野に入れつつ、どこまで認めるかの議論が必要」といった意見が寄せられた。メタ分析の質を担保するため、申請案件ごとに、メタ分析に用いた個々の研究論文の質を検証するという方向性が示された。
マーカーと表示方法の在り方も課題に
もう1つの課題は、関与成分と効果の関連性を証明できるマーカー(指標)の在り方。
申請企業が提出する資料は、(1)関与成分と疾病リスクの関係性を直接的に示す根拠資料で構成されたもの、(2)関与成分とサロゲート(代用)マーカーの関係性、代用マーカーと疾病リスクの関係性を示す根拠資料で構成されたもの――のどちらかとなる。
代用マーカーは、効果を直接測ることができない場合に用いる。例えば、「脂質異常症と虚血性心疾患」「高血圧と脳血管疾患」などが想定される。
消費者庁の担当官は、「メタ分析については関与成分を基にしたもの、またはバイオマーカーを基にしたもののいずれかがあれば受領している」(食品表示企画課保健表示室)と説明した。
委員からは、代用マーカーを用いた場合、「この食品に含まれる〇〇は、食後血糖値を抑える機能があります。食後血糖値の急激な上昇は、2型糖尿病の発症リスクの1つです」といった2段階に分けた表示方法が適切との意見が聞かれた。
今後の審議では、申請企業が提出したメタ分析などを慎重に吟味しつつ、根拠資料と表示方法をセットで検討する方針とみられる。
対象の疾病は生活習慣病が中心
表示可能な疾病については、通知で示した「疾病リスクの低減について注意喚起する必要性」などを踏まえ、生活習慣病を中心とする考え方が示された。
取りまとめとして、受田部会長は「一定の考え方を議論できた。これを基に個別の審議に入る」と述べた。
疾病名を記載できる疾病リスク低減表示は、トクホ制度のみに導入された仕組み。機能性表示食品の台頭で業界のトクホ離れが加速しているが、個別審査による疾病リスク低減表示が可能とわかれば、大手メーカーを中心にトクホへの“回帰”が進むと予想される。
(木村 祐作)
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