D2C時代のリピート通販ビジネスの成功には、さまざまな壁を乗り越える必要があります。立ち上げ直後の壁、成長鈍化の壁、そして成長限界の壁。それぞれの壁を理解し、適切な施策を行うことが成功の鍵です。
今回は『顧客に選ばれ続ける強いリピート通販事業の作り方』という書籍から、リピート通販事業に参入した企業が直面する壁に関して抜粋してご紹介します。
リピート通販事業者に立ちはだかる「3つの壁」
第一の壁 立ち上げ直後の壁
広告出稿を開始した直後から目標や目安とするCPOの範囲内で、新規顧客を十分に獲得できる事業は、残念ながらなかなかありません。つまり、新規顧客の獲得を開始した直後から、広告クリエイティブの見直しや販促施策の軌道修正など、PDCAサイクルを回しながらCPOを改善していくことが求められるわけですが、思うような結果が出ないことで資金がショートし、撤退する事業者が一定数存在します。
この「立ち上げ直後の壁」の要因としては、市場の規模感への認識のズレによって事業計画自体が実現不可能である、固定費がかかりすぎている、テスト予算が小さすぎる、商品の差別化ができていないといった問題が挙げられます。そのほか、目先の結果がよい媒体しかやらない、タスクの担当や責任の所在が曖昧である、スケジュール管理がルーズである、正確な数値管理や計算ができていないといったケースも散見されます。
計画通りに進めるのは非常に難しいことですが、たとえまだ状態を把握するためのデータが限られる段階であっても、データを分析し、計画を微調整しながら進めていくことが大切です。新たに実施する施策だけではなく、すでに開始した広告施策のターゲット層や媒体、販売方法の見直しなどを含めて、その都度、戦略を検討することが求められます。
さらに、販売計画に対して大幅な未達が続くようであれば、計画自体も大胆に見直す必要があるかもしれません。新規顧客獲得の計画については、第4章でくわしく解説しましょう。
第二の壁 成長鈍化の壁
新規顧客獲得の効率が落ちた状態を成長の鈍化とか「踊り場」と呼ぶことがありますが、そうした場面は、立ち上げ直後の一回に限らず売上拡大の途上で複数回起こります。
この「鈍化」が訪れるタイミングは、商材の市場規模や利用する媒体によって異なりますが、年商20億円、60億円、100億円前後で足踏みする企業が多く見られます。こうしたタイミングは新規顧客獲得の低下、また既存市場に参入している場合には新たな競合の参入などシェア拡大の阻害要因が関連しているものと考えられます。
こうした状況を打破するために、多くの事業者は商品ラインナップの拡充や、新商品・新ブランドの投下を計画したりします。また、販売方法やマーケティング戦略を大幅に見直すという手も考えられます。
第三の壁 成長限界の壁
「成長鈍化の壁」を乗り越えたとしても、参入する商品の市場規模が限界に近づくと、新規顧客の獲得コスト(CPO)もさらに上昇し、新規獲得数が実質的な上限に達します。継続率もこれ以上上昇しないという限界点に達すると、離脱率と均衡した状態になります。この「規模的に拡大できない限界値」は理論上必ず起こるもので、マーケティング施策では乗り越えることができません。通販ビジネス関連の書籍等ではあまり取り上げられていませんが、私たちはこれを成長の限界と呼んでいて、事業者が複数商品を扱おうとする、あるいは扱うことになる背景でもあります。
「3つの壁」を乗り越えるための「3つの理解」
以上の3つの壁をどう乗り越えるか。そのために求められるのが、次の「3つの理解」です。これは通販ビジネスに対して持つべきスタンスそのものでもあり、個別の施策を考える前に理解しておくべき通販ビジネスの基本です。
理解1 リピート通販ビジネスの構造の理解
リピート通販で売上を拡大するためには、まずはリピート通販ビジネスの構造を理解することが必須です。しかし現実には、目先の施策結果にだけ注目し、全体構造を正しく理解していない事業者が散見されます。特に通販業界に参入して間もない事業者や、まだ予算が潤沢ではない事業者はこの傾向が強いようです。たとえばリピート通販ビジネスは、「CPO」「LTV」といった指標の理解なくして語れませんし、コスト構造への理解も不可欠です。リピート通販ビジネスの開始時には、商品開発やシステム導入などのコストが発生します。1年目のコスト構造は事業を開始・開発するにあたって必要な初期コストであり、これを1年で回収するのは非常に難しいです。
リピート通販ビジネスは、顧客に購入し続けていただくことで収益を積み上げていくビジネスモデルであり、事業を継続させて累積で黒字化を目指すという姿勢が大切です。業種や業態、商材によって目指すべき投資回収期間は異なりますから、参入市場や商材の特徴をよく理解したうえで事業計画を策定する必要があります。他社のビジネスモデルを安直になぞらえるようなことは、絶対に避けなければなりません。
理解2 ポテンシャルの理解
売上を拡大するために新たに施策を行なう、または現在行なっている施策にコストをかける場合には、効果の影響範囲とインパクトを理解しておく必要があります。それは言い方を換えれば、KPI(Key Performance Indicator=目標を達成するための重要業績評価指標)に対する変数のポテンシャルを理解するということです。商材や商品、カテゴリーによって市場規模は異なりますから、それぞれの市場規模や拡大の可能性を理解して事業計画を立て、個々の施策を考える必要があります。「売上を拡大したい」という願望だけで事業計画を立ててはいけません。新規顧客の獲得効率も重要ですが、売上を拡大するためには、全体として目標値をクリアしているかという視点で見ることが大切です。たとえば、直近のCPOがよい媒体だけに限定し続けていると、遅かれ早かれその媒体は疲弊する、つまりその媒体のターゲット顧客を獲得しつくしてしまうことになります。KPIへの理解を深めるための分析の考え方は、第4章でお話ししましょう。
理解3 リスクの理解
新たに施策を実施することのリスク、逆に問題のありそうな施策の見直しを先送りしたり現状のまま放置するリスクを理解することで、施策の実施・見直しの優先順位を正しく設定することが大切です。
たとえば、一時的な利益を確保するために、新規顧客獲得のための広告を停止する事業者が見られます。短期的に利益は出ますが、新規獲得広告の停止期間が半年など長期間に及ぶと、翌年の売上が前年実績を割り込むといった影響が出る恐れがあります。
さらに、その影響を挽回するために、停止期間以上の時間を要することもあります。
そのほか、顧客からのクレームを放置するといったこともリスクであり、クレームに繋がるような事象を現場で検知した場合、どこまで影響が広がる可能性があるか、リスクの範囲を的確に理解することが重要です。
書籍紹介
D2C時代のリピート通販ビジネスを徹底解説。リピート通販市場の現状から、成功のポイント、商品戦略、事業計画、広告戦略、CRM戦略、データ分析、組織・プラットフォームの構築までを網羅。業界のプロが教える、強固なリピート顧客を獲得する手法を提供。
顧客に選ばれ続ける強いリピート通販事業の作り方
著者:梅田哲平/山崎雄司/中居隆
定価:1848円(1680円+税10%)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
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