届出制と法令化の関係
機能性表示食品制度は2015年のスタート以来、ガイドラインによって運用されてきた。ガイドラインには法的拘束力がないため、届出者のやりたい放題という状況にあった。
届出手続きを原料メーカーや製造受託会社(川上企業)に“丸投げ”する通販会社も多い。川上企業はダミーの届出を行い、それをもとに顧客(通販会社など)を見つけるための営業を行う。だが、川上企業の届出資料がお粗末なケースも少なくなく、それに倣った通販会社(川上企業の顧客)の届出が、一斉に撤回されるという騒動が繰り返されてきた。
今回の改正で、消費者庁はガイドラインによる運用から、法令に基づく運用へと大きく舵を切った。紅麹問題を受けて、もはや事業者任せでは持ちこたえられないと判断したわけだ。
届出者に課すルールに法的拘束力を持たせて国の関与を強めるものの、その一方で、従来からの届出制は維持される。消費者庁からの諮問を議論した内閣府の消費者委員会では、「諮問の内容は複雑で、届出制の中で規制を強化するという矛盾もある」といった戸惑いの声も聞かれた。
今回の改正は、食品表示法の枠内で何ができるのか、という観点から検討された。その結果、食品表示法に基づく食品表示基準(内閣府令)や告示で、届出に関するすべてのルールを規定。違反した届出者に対して機能性をうたうことを禁止し、機能性表示食品として販売できないようにするという点が、改正の本質部分となる。
届出制を維持するため、届出資料に不備がなければ販売が可能になるという緩やかな手続き(国の審査・許可が不要)は従来のままだが、問題が発覚した場合に、これまでのように届出者の判断に任せるのではなく、食品表示法の観点から国が直接厳しい対応を取れるようにする。
GMP管理の義務化に伴う通販会社の責務
食品表示基準の改正によって、(1)新たな科学的知見を得た場合の消費者庁への報告、(2)サプリメントを対象としたGMPによる製造管理、(3)医師の診断による健康被害情報の消費者庁・保健所への早期提供、(4)これらの順守事項の自己チェックと報告(更新制)――などを届出者に義務づける。
これらはすべて、通販会社にとって重要な取り組みとなるが、GMP管理の義務化への対応にも特段の注意が必要となる。従来のように、原料メーカーや製造受託会社に“丸投げ”する姿勢だと、失敗を招くことになる。
施行後、実際にGMP管理を行うのは最終製品の工場だが、届出者は工場の取り組みを確認する責任を負う。また、機能性関与成分を含む原材料の規格書等を届出者が適切に保管することなどを規定する。更新制の導入により、届出者には順守状況を年に1回報告することも義務づける。これらを実施しない届出者は、機能性がうたえなくなる。
GMP管理の義務化については、2年間の経過措置期間を設ける。その間に、通販会社では販売製品の製造工場が、告示のGMP基準に適合した管理を行っているかを確認し、適切な対応を取らなければならない。消費者庁では工場への立ち入り検査を行う。「経過措置期間を利用して、すべての対象となる工場に1回は確認する必要がある。当面は(GMPの)導入を促すことが目的となる」(食品表示課)という。
GMP管理の義務化をめぐり、業界内ではGMP認証について間違った解釈も生じているようだ。現在、民間の2団体が健康食品のGMP認証サービスを有償で提供しているが、認証取得が必須になるという誤解である。しかし、今回の改正は、GMP認証取得工場で製造することを求めているわけではなく、告示のGMP基準に適合した製造管理を要件としている。認証を受けるかどうかは、各事業者の判断となる。
このほか、通販会社では、海外の工場で生産された輸入品についても、GMP管理が必須となることに注意しなければならない。
原材料のチェックも強化
国の検討で重要課題に挙がったのが、原材料の安全性確保。GMP管理の義務化は、最終製品の工場が対象となる。原材料の工場についてはGMP管理が望ましいとし、義務化の対象外とした。
ただし、最終製品の工場ではGMP管理の一環として、原材料の受け入れ時に、製品標準書の規格に適合した原材料であることを確認しなければならない。製品標準書や製造管理基準書などに基づいて原材料をロットごとに保管・出納し、その記録を作成・保管することなども求められる。
これらの実務は製造者が行うものの、届出者は工場で原材料の受け入れ時のチェックが十分に行われていることを確認しなければならない。
さらに、消費者庁では、今年3月11日付の通知「錠剤、カプセル剤等食品の原材料の安全性に関する自主点検及び製品設計に関する指針」を告示に落とし込む予定。通知(ガイドライン)を法令化することで、原材料の安全性確保についても強化する。
“玉石混交”の製造現場を線引き
健康食品GMPをめぐり、医薬品GMPと厳格さが異なることから「なんちゃってGMP」と揶揄する声もある。GMP管理を義務づければ、健康被害を防げると考えることも早計だ。
しかし、GMP管理の義務化は、機能性表示食品の信頼性を高めることにつながる。“玉石混交”と言われる健康食品の製造現場に、一定の線引きが行われるからだ。
健康食品の製造現場を見ると、医薬品並みの厳しい管理体制を敷く工場がある一方で、金属加工などを手がける町工場内で十分な仕切りも設けずに最終製品を製造するケースや、キッチンで原材料を調合するようなケースもある。さらには、最終製品の販売業者が持ち込んだ原材料をそのまま製造に用いる製造受託会社も存在し、過去には、製造された製品から医薬品成分が検出される事件も発生している。
GMP管理の義務化と国による立ち入り検査によって、少なくとも、食品製造に相応しくない製造者を排除できると考えられる。いわゆる健康食品との違いが一層明確になり、信頼向上への第一歩となりそうだ。
(つづく)
(木村 祐作)
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