【特別対談】(株)ダイレクトマーケティングゼロ 田村雅樹社長
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カゴメ(株) マーケティング本部 通販事業部 販売企画グループ原浩晃主任
通販・EC業界では、新規獲得施策に加えLTVを向上させる施策が重視されてきている。しかし、その手法は確立されているとはいえず、各社が手探りで取り組んでいるのが現状だ。そこで今回、通販・EC業界におけるCRMの在り方や施策について、コールセンターを活用した独自のCRM施策を展開し成果を上げているカゴメ(株)のマーケティング本部 通販事業部 販売企画グループの原浩晃主任と、通販CRMのプロフェッショナル集団である(株)ダイレクトマーケティングゼロの田村雅樹社長の二人に語ってもらった。今回から、上・中・下の3回に分けて更新する。
※当記事は上・中・下の上編です
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CRM着手・実施・改善…それぞれの悩みと解決策を徹底討論
※DM0の田村社長(写真左)とカゴメ 通販事業部の原主任
カゴメはコールセンターからCRM施策に着手
——まず初めに原さんの経歴を教えてください。
原:新卒でカゴメに入社し、11年間、新規販路開拓の営業を担当。2013年に通販事業部に異動してきました。実は、通販事業部に異動した1年目に既存領域の販促で田村さんとご縁がありました。
その後、事業部内の異動で新規獲得を担当し、17年から現在のフルフィルメント領域を担当しています。カゴメの通販事業部は、他社、特に専業通販企業と比べてCRMの取り組みが遅れている状況でした。
16年にコールセンターまわりから取り組みを強化し、今年1月から、当社の通販事業部全体とベンダーさんの計4社で構成するCRMプロジェクトを立ち上げ、活動しています。
田村:実は、カゴメさんから声をかけていただいたのは、DM0の設立年度でした。09年の話ですね。当時、印象的だったのがコールセンターでした。カゴメさんからの依頼で、休眠のお客様向けの施策のお仕事をいただいていたのですが、カゴメさんは施策を考える上でのインプット情報として「お客さまからのお叱りの言葉集」をまとめていました。お客様の声をしっかりと収集できているコールセンターが機能している点と、企業としてお客様を大事にされているという印象が残っています。御社は、16年からCRMの取り組みを会社全体で強化されていますが、きっかけは何かあったのですか?
原:16年にようやくCRMに取り組む素地が整ったというのが一番大きかったと思います。通販事業モデルで重要なのは、(1)商品、(2)顧客獲得、(3)継続、の3点です。
13年当時、当社の通販事業部は、成長が止まり、かなり苦戦していました。事業部が発足して10数年が経ち、当時の主力商品に、顧客を獲得する力が弱まっていたのです。そこで新しい商品の開発に着手し、差別化された商品が生まれ、販促視点では、オフラインとオンラインを横断した新しい販路の開拓に成功しました。そうすることで顧客獲得力がつき、16年にようやくCRMに着手したという流れです。
コストの暴騰がCRM着手の大きな契機に
原;CRMに着手するきっかけとなったのは、コストの高騰です。カゴメの通販は主力商品が野菜ジュースです。そのため、お届けするケースが大きくて重くなり、昨今の物流危機で配送コストが跳ね上がっています。
また、天候不順の影響もあり、原料である野菜の原価も上がっています。加えてコールセンターの人材難をはじめとする人件費の高騰もあり、三重苦の状態でした。
その状況を販促視点で改善するには、大きく分けると「新規獲得の効率を上げる」か、「LTVをアップさせる」かの2点しかありません。新規獲得の効率は好調でしたが、さらに改善していくには限界を感じていました。まだ着手ができていない伸びしろのあるCRMを強化して、LTVをアップさせるしかないという考えに至りました。
コールセンターでの取り組みから徐々に開始し、17年にコンタクトセンターアワードでストラテジー部門賞を受賞できたことをきっかけに、CRM強化を加速させています。
田村:通販業界でCRMの重要性が年々クローズアップされていますが、その一番大きい要因として新規獲得のCPAが高騰していることもあります。カゴメさんとしては、その苦労はあまりなかったようですが。
※DM0の田村社長
原:業界としてCRMがクローズアップされてきている背景については、確かにご指摘の通りだと思います。当社の獲得指標は定期購入のCPOで管理していますが、当社のCPOは良化傾向にありました。
オンライン、オフラインでの媒体拡張がそれぞれうまくいったことと、コールセンターでの引き上げ施策の強化に成功したことが要因です。
ただ、先ほども申し上げたコストの高騰があり、新規獲得の効率をさらに改善していくことの限界を考慮して、CRMに目が向いていったというところです。
強みを持つ電話対応でCRMを強化、LTV28%増・ROI約7倍の成果
——コールセンターの取り組みからCRM強化に着手したとのことですが、具体的にはどんな取り組みをしたのでしょうか。
原:コールセンター業務をアウトソースしているベルシステム24さんと共同で取り組みをしました。内容としては、コミュニケーターに権限を委譲し、特別なお客さまからお電話がかかってきた時に、コミュニケーターの判断でお客さまへの特別なサービスを自由に実施していいというものです。
例えば、お客さまの誕生日や孫の入学式などといったタイミングで、上限を設けずにオペレーターが自由に商品やノベルティを贈る、という施策です。結果として、ロイヤル対応後6カ月間のLTVは、前年同月で比較すると28%アップ、ROI(投資対効果)は約7倍となりました。
——コールセンターから取り組み始めたきっかけはなんでしょうか?
原:16年当時、事業部としては、顧客獲得が順調に進展し始めた段階で、CPOを改善しながら、獲得規模を拡大していました。一方で、定期解約者アンケートの中で、「長期契約のメリットが感じられない」を理由に挙げるお客様が目立ち始めていました。つまり、お客様との期待と当社のコミュニケーションに対するズレを埋める手立てが必要ということです。
そこで、(1)主力流入経路であるオフラインを軸にしたコミュニケーションを設計、(2)自社の強みであるコールセンターを活用したCRMの構築からスタート、といった視点から少しずつ、取り組みを始めることにしました。
カゴメの通販は、オンラインでの獲得経路が順調に伸びていますが、まだオフライン(ハガキなどの郵送や電話)からの注文が多くを占めています。また、自社の強みを整理するなかで、お客さまのアンケート調査からコールセンターへの評価は非常に高く、他社とコールセンターの応対品質を比較したミステリーコール評価でも、応対品質が非常に高いというデータがあったため、コールセンターからCRMの取り組みを始めました。
※カゴメ 通販事業部の原主任
サービス付与権限のコミュニケーター委譲ですが、苦労はありました。まず、ノベルティなどをプレゼントするにもタイミングを計るのが難しかったのです。タイミングを間違えると恩の押し売りになってしまうからです。また、自ら判断し、お客さまそれぞれに最適なサービスを実施するという行為は、スキルの高いコミュニケーターでも、非常にハードルが高かったのです。
改善策としては、「サービス提供機会の見直し」「コミュニケーターのマインド醸成」「サービス拡充」を行いました。サービス提供機会の見直しについては、お客様との会話の中で、誕生日などといったお客さまのハレの日だけでなく、日常の喜ばしい出来事を探すように努めました。例えば「今度家にお孫さんが遊びに来る」とか、「お孫さんが運動会でいい成績をあげた」といったことですね。
マインド醸成に向けては、コミュニケーター座談会を実施し、コミュニケーターの心理的なハードルを減らす取り組みを行い、サービス拡充については、ノベルティグッズのラインアップを拡充したり、定期のお休み制度の延長を提供したりすることで成果につなげていきました。
お客さまの心をつかむ「ロイヤル対応」ができれば、結果としてLTVアップにつながると考えています。実施したサービス内容と購買行動の相関の分析で見ても、お客様にお渡しした商品やノベルティ別で、LTVアップの大きな開きはありませんでした。つまり、購買に寄与したのは、お客様にプレゼントした「モノ」ではなく、コミュニケーターがお客様に対して個別に行った「感謝の行為」が、当社に対する好意度に寄与し、購買に繋がったのではないかと考えています。現在は、電話ではないチャネルのお客さまにどう対応していくかなどを検討しているところです。
田村:常に検証をしながらPDCAを回されているのですね。そこまで質の高いCRMを実施している通販会社さんは珍しく、カゴメさんの取り組みはすごいと思います。
(中編に続く)
(古川寛之)
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カゴメ株式会社 マーケティング本部 通販事業部 原浩晃 主任
【プロフィール】
2002年カゴメ入社。営業部門で新規販路開拓をミッションに活動。備蓄ルート開拓にあたり、社内プロジェクトを立ち上げ、長期保存野菜ジュースの開発、販路開拓に成功。13年に通販事業部へ異動、ブランド担当兼、新規顧客獲得販促担当として、宣伝費が削減される環境下において、顧客獲得効率を3割改善しながら、獲得規模を1.4倍へ拡大する事に成功。17年1月よりフルフィルメント担当に異動し、コールセンターを中心としたCRM構築を推進中。
■カゴメ
株式会社ダイレクトマーケティングゼロ 代表取締役社長 田村雅樹 氏
【プロフィール】
早稲田大学法学部卒業後、「株式会社ベネッセコーポレーション」、大手化粧品会社を経て、2009年に通販専門のコンサルティング会社「ダイレクトマーケティングゼロ」を設立。通販化粧品・健康食品企業を中心に計500社以上の顧問・コンサルティングを行う。「AMIDAS」や「通販7指標必勝方程式」などの独自理論を打ち立て、クライアントの売上を20倍上げた実績をもつ。「DMA国際エコー賞」「ケープルズ賞」をはじめ「全日本DM大賞」などダイレクトマーケティングに関する賞を国内外で通算37冠受賞。著書に『ゼロからはじめる通販アカデミー』(ダイヤモンド社)がある。講演・寄稿等多数。
■ダイレクトマーケティングゼロ
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